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とにかく曲が作りたいし、生まれる。だから、リリースする。2021年6月にメジャー1stアルバム『LENS』をリリースしたばかりのKroiから、早くも新たなEP『nerd』が到着した。そう、内田怜央(Vo.)、長谷部悠生(Gt.)、関将典(Ba)、益田英知(Dr.)、千葉大樹(Key.)の5人は絶え間なく楽曲制作を続けている。それはメジャーディールを交わしたからとか、大局的なリリースプランに間に合わせるためにやっているとか、そういうことではまったくなく、アーティストとしての理想的な本能を全うするように内田は時間があればデモを作るし、メンバーにそれが渡れば今この時点で録るべき楽曲をレコーディングする。もちろん、レーベルもジャストなリリースタイミングで作品を世に送り出す算段をつけているわけだが、しかし、あくまで楽曲自体が活動を牽引していることがとてつもなく重要だ。事実、現時点でデモのストックは4~50曲あるという。また新作を聴く度に、メンバーの千葉がミックスエンジニアを務めていることも相当なアドバンテージであると思い知る。この6曲入りのEP『nerd』は、Kroiは引き続きどこまでも音楽至上主義を貫き続けるという宣言のように受け止めることもできる1枚だ。M1「Juden」はダイハツ「ROCKY-e:smart」という花形のタイアップが付帯した楽曲である一方で、濃厚なファンクネスをまといながら各メンバーのプレイヤーとしての特色が遺憾なく発揮されている。続くM2「pith」はウェッサイ/Gファンク的なヒップホップのエッセンスとグランジが合体したような、かなり独創的であると同時にKroiのストレンジダークヒーロー的な側面をおおいに楽しめる。あるいは、M5「おなじだと」やM6「WATAGUMO」という後半に位置する楽曲ではジャズフュージョン/ジャズファンク由来のグルーヴを平熱のグッドソングに落とし込んでいて、バンドの熟成された音楽力を確認できる。では、ここからはメンバーの声を届けたい。導入は「Juden」のリリックの話から。

内田:今の自分のモードとして怖い歌詞を書きたいなと思ったんです。

――まさに今作はホラー感がありますよね。

内田:不気味な童謡みたいなEPにしたいと思ったんです。「おなじだと」なんかは特にそうですけど。

――不気味だし、切ないという。

内田:うんうん。今までEPやアルバムに作品単位でテーマ性を持たせたことがなかったので。今回は裏テーマとして、恐怖を軸に歌詞を書いてみました。

――なぜ恐怖をフィーチャーしたいと思ったんですか?

内田:『LENS』のリリース後にわりと自由な時間ができて、そのときにめちゃくちゃ怪談にハマったんです。怪談師が語る怖い話ってカルチャーとしてカッコいいなと思って。言葉巧みに怪談を披露して聞く人を怯えさせる姿を見て、恐怖という感情の深さに惹かれてしまったんですよね。

――持続する恐怖心は中毒性にもなる。

内田:そうなんですよ。あと、恐怖心はいろんな感情が混じるなと思って。優しさとか、正反対の陽的な感情も入れ込むことができるなと思って。たとえば人を喜ばせるために用意したサプライズも仕掛けられた本人にとっては最初は怖いじゃないですか。

――前段に恐怖があるから、カタルシスが生まれる。

内田:そうです、そうです。最近、アートや表現作品に触れる人たちは憂鬱を自ら接種、充電してるなと思うことがあって。それもあって「Juden」というタイトルにしたんです。そういうことも考えながら、「Juden」の歌詞を書いたんですけど、青春時代ってけっこう怖かったなと思って。キラキラした風景に隠れていた、自分がどうにかなっちゃってると感じるような狂気的な感情だったりダークな要素があって。学校生活には自分が普通の顔をして通っていた道が実はすごく恐ろしかったみたいな、取り戻せない怖さがあったなと。

――そういうテーマ性をはらんだリリックをあの濃厚なファンクネスにまみれたオケに乗せることがすごく痛快。

内田:楽曲制作の軸として、逆張りをしていかないとバランスが取れないというか。明るい曲調には暗い歌詞を乗せないと深みが出ない。そこはすごく意識してますね。

――「Juden」には各プレイヤーのソロパートも含めてあらためてKroiのバンドとしてのダイナミズムを遺憾なくアピールする性格も持っていますね。

千葉:怜央が作ったデモのベースとドラムだけのセクションの時点ですごくカッコよかったんです。それをそのまま純粋にアップデートしていくための音作りをしました。

内田:これはめちゃめちゃ閃きのデモですね。『LENS』のインタビューのときに「第一章が終わった」とか言ってたじゃないですか。だから、新章の一発目にファンクをやるのは絶対に違うなと思ってたんですけど(笑)、このEPに向けて1週間でデモを10曲作ってみんなに提出したんですね。短いスパンの中で今まで積み重ねてきたファンクの要素を入れず10曲のデモを作るのはなかなか難しくて。それもあって「Juden」のデモは遊びっぽく作ったんですけど、みんなに聴かせたら「いいね」ってなって。レコーディングしている段階ではいつにも増して最終形態が全然見えなかったんですけど、レコーディングの千葉さんのディレクションが鬼神のごとくという感じで(笑)。すべて的確なディレクションでした。

関:『LENS』のレコーディングを経て、今回は「プリプロをしっかりやろう」という提案が千葉からあって。じっくりしたプリプロを経て千葉のミックスのイメージが固まっていたから、レコーディングでは千葉が司令室から指示を出すみたいな感じでしたね(笑)。

益田:まさに鬼気迫るディレクションだったというか(笑)。スネアのサウンドを第3案まで出したんですけど、3度目の正直で「これだ」ってなって。千葉に妥協のないサウンドのゴールがあったからこそたどり着けましたね。

長谷部:鬼気迫る千葉さんのディレクションで思い出したんですけど、今まではずっとアンプで鳴らしたギターを録っていたんですけど、「Juden」では宅録してDAW上で作った音を入れ込んでいて。半分くらいは家で千葉さんと録った音を使ってるんです。家にある壊れたギターを使ってみた音が入ってたり、30層くらいのカッティングの音が入ってたり。そういう緻密な音作りができましたね。

千葉:ソロパートで言ったら、一回全員に自由に自分のソロを考えさせたらめちゃくちゃなことになっちゃって。そのタイミングでレコーディングを止めたんですよ(笑)。「好きにやる」というのはKroiのスローガンでありつつも、これはちょっと違う方向性になってきてしまうなと思って。ソロって個人から出てくる音なのであまりとやかく言いたくないんですけど、ディレクションのことを考えると違う話になってくるので。「言いにくいけど、ちょっと変えたいかも」って提案しましたね。

――「おなじだと」と「WATAGUMO」では、ジャズファンクであり、ジャズフュージョン的なニュアンスを帯びたレイドバックした平熱のグルーヴ感であり、歌モノとして昇華する手つきもかなり印象的で。

千葉:たしかにリファレンスとして目指していた方向はジャズが多かったかも。

内田:昔からフュージョン歌モノをやりたくて。自分もメンバーも徐々にスキルアップしているので、それを表現できるようになったと思うんですよね。

――このEPに『nerd』というタイトルを付けてることにもニヤリとさせられる。

関:タイトルは俺が提案させてもらったんですけど、nerdという言葉自体は英語圏ではわりと陰気な印象があるじゃないですか。「あいつ、ナードなやつだな」って運動部にやつらにバカにされるみたいな。でも、そうやって周りにとやかく言われても、好きなものがあって熱中できることはめちゃくちゃカッコいいことだというのがKroi的な解釈で。nerdという言葉をもっと尊重していきたいし、自分たちのスタイルにはそういうマインドがあるということを『LENS』の次にリリースする作品であらためて意思表示したいなと思ったんです。

――本作のリリースを経て、対バンツアーがスタートします。ラインナップの振り幅も非常にKroiらしい、どんぐりず、韻シスト、CHAI、ニガミ17才、マハラージャン、在日ファンクを迎える対バンツアーもかなり刺激的なものになりそうですね。

内田:めちゃくちゃ楽しみです。

千葉:勉強したいですね。今、このご時世では他のバンドのライブをじっくり観られること自体が貴重な機会なので、いろんなジャンルのバンドを見て得られる気づきも含めて楽しみです。

関:ここからライブのタームに入ると、また今度はレコーディングがしたくなって、それを繰り返すのが自分たちだと思うので。おそらく新年早々からまた制作に入るんじゃないかと思います。